オリンピックは、LGBTQ含む「いかなる種類の差別」を禁止する憲章を掲げており、存在する差別をなくすためのきっかけになることが期待されています。2021年の東京五輪では、重量挙げ選手でトランスジェンダーのローレル・ハバードが自身の自認する性別で出場したことで話題になりました。

LGBTQコミュニティでは大きな進歩となったものの、同時に不公平だという声も上がっています。実際、まだまだオリンピックにおけるLGBTQの問題は根強く残っており、海外と比べると日本ではカミングアウトした選手の数は著しく少ないのです。

また、オリンピックだけでなくパラリンピックや他の国際大会のことも忘れてはいけません。そこで、本記事ではLGBTQ選手が自分らしく試合に出場できるために取り組むべきことや、今後のスポーツの可能性についてご紹介します。

スポーツにおける日本のLGBTQの現状は・・・?

今年のオリンピックに出場した選手のなかで、LGBTQを自認する人が5年前に比べて3倍多いことや、海外のアスリートが自身のセクシュアリティを公にしていることなど、LGBTQに関して寛容である各国と日本の現状にギャップを感じる人もいるかもしれません。そこで日本の現状をみていきましょう。

LGBT理解増進法はオリンピック開催を目前に見送り・・・

オリンピズムの根本原則が示されたオリンピック憲章には、LGBT含む「いかなる種類の差別」を禁止することが明示されています。オリンピック開催に向け、6月にはLGBTの理解を目的とした「LGBT理解増進法案」が国会に提出されました。一度は与野党が合意したものの、自民党の反対意見によりオリンピック開催を目前に法案は見送られることに。さらに議論の場では、議員による差別的発言も多く見受けられ、まだまだLGBTQの理解は不十分であることが現状です。

スポーツにおける海外のLGBTQの現状は・・・?

次に、海外の現状についてもご紹介します。

トランスジェンダー選手の出場を禁止

2022年6月、国際水泳連盟(FINA)は、トランスジェンダー女性である選手の出場権にまつわる議論に奮闘しました。新方針とは、トランスジェンダー選手が「オープン」というカテゴリーで出場する権利が与えられるものでした。FINAのメンバー152人の中の71%が賛成した結果であり、一見嬉しいニュースのようにも捉えられますが、あくまで「参加できる」ことに過ぎないのです。

また、新方針の文書には、MtFの選手が12歳までに思春期を経験していなければ、「女子カテゴリー」への出場が認められるとの内容が盛り込まれていました。そのため、リア・トーマス選手は出場ができなかったといいます。

トランスジェンダー選手をめぐるスポーツ大会の出場は、賛否両論の声がみられます。一番は出場する選手たちが自分らしくスポーツができることです。今後のオリンピック、パラリンピックでも同じような問題に衝突すると考えられ、ますます問題視されるべき話題となるでしょう。

ジェンダーが要因で出場を辞退

スケート選手であるレオ・ベイカーは、19歳の時にトランスジェンダーを自認。2020年の東京オリンピックに向けて練習に励んでいたものの、本番を目前にカミングアウトをしました。そして、女子チームに所属していたレオは自らチームを辞め、正式に名前と移行を始めました。女性として出場したくないという想いや、スポンサーや経歴に悪影響が与えられる恐怖心など、さまざまな葛藤の中で決断したオリンピックの辞退。世の中では、ジェンダーレスな言葉や表現が浸透してきているようにみえるものの、まだまだオープンにできなかったり、仕事に影響を及ぼしたりすることもあるのです。

ステイ・オン・ボード: レオ・ベイカーのストーリー – Netflix

オリンピック金メダリストとしての道のり

飛び込み選手としては過去最多のメダル数を手にしたデーリー選手。まさに才能溢れる選手である印象を持ちましたが、実は金メダルを獲得するまでには過酷な道のりがあったのです。

7歳で競技を始め、2008年に14歳という若さで北京オリンピックに出場。当時は7位の座に着きました。その後、2012年のロンドン大会では銅メダルを手に入れたものの、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、18位とメダル獲得には程遠くなってしまうことに。男子シンクロナイズドダイビング10メートル高飛び込みは、中国の代表選手により王者の座を長年奪われていましたが、今年の東京オリンピックで、マティ・リー選手とのナイスなペアパフォーマンスを魅せ、見事金メダルを獲得しました。

ゲイをカミングアウトしたオリンピック金メダリスト

「私がゲイであり、オリンピックのチャンピオンであることを誇りに思っています。」東京オリンピック・男子シンクロ高飛び込みで見事金メダルを獲得したイギリス代表のトーマス・デーリー選手(27歳)は、競技後に喜びを語りました。そんなデーリー選手をご紹介します。

金メダリストまでの道のり

飛び込み選手としては過去最多のメダル数を手にしたデーリー選手。まさに才能溢れる選手である印象を持ちましたが、実は金メダルを獲得するまでには過酷な道のりがあったのです。7歳で競技を始め、2008年に14歳という若さで北京オリンピックに出場。当時は7位の座に着きました。その後、2012年のロンドン大会では銅メダルを手に入れたものの、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、18位とメダル獲得には程遠くなってしまうことに。男子シンクロナイズドダイビング10メートル高飛び込みは、中国の代表選手により王者の座を長年奪われていましたが、今年の東京オリンピックで、マティ・リー選手とのナイスなペアパフォーマンスを魅せ、見事金メダルを獲得しました。

ゲイであることをカミングアウト

また競技に加え、自身のYoutubeで日本の設備に感激する姿や、会場で得意とする編み物をしている姿などが話題となりました。そして、ゲイをカミングアウトしているアスリートの一人であり、セクシュアルマイノリティとしての自身の経験や思いを競技後の記者会見で述べました。デーリー選手は、プライベートでは自身がゲイであることをロンドンオリンピック後の2013年にカミングアウト。当時は「ゲイであることを公にすることで、サポートされなくなるかもしれない。ファンが受け入れてくれなくなるかもしれない。」とスポーツ選手としてセクシュアリティをオープンにすることの困難を抱えていたといいます。カミングアウトした後の2017年に、アメリカ出身の脚本家ダスティン・ランス・ブラックさんと結婚。東京オリンピック出場が決まると、2018年に3歳の息子の存在を公表。過去の大会でメダル獲得に及ばなかった時や、今回の東京オリンピックの輝かしい功績を残した時など、常に家族の暖かい存在に励まされていたそう。

同じLGBTQ当事者をサポートしたいという想い

試合後の記者会見では、「オリンピックに出場している国のなかには、LGBTであることが罪に値することもある。こうやって自分のセクシュアリティを公表してオリンピックに出場できることに、感謝しかありません」と答えました。デーリー選手が過去にゲイであることを隠して生きてきたことで「負い目に感じていた」とも述べ、さらにいじめに遭った経験を告白。同じように悩んでいる子供たちが大会を見て、夢を持って生きてほしいと加えました。「私がゲイであり、オリンピックのチャンピオンであることを誇りに思っています」「若い頃は、自分のアイデンティティを隠し負い目に感じていて、何も達成できないと思っていました。ですが今、何でも達成できることを証明できたかと思います」「私ができたように、セクシュアリティや人種関係なく、オリンピックのチャンピオンになれることを知ってもらいたいです」と述べました。デーリー選手の言葉は、国を超え、自分のアイデンティティに悩む人たちに希望と勇気を与えたことでしょう。

LGBTQを公表しているLGBTQ選手

ゲイをカミングアウトしたデーリー選手のほかにもセクシュアルマイノリティであることを公にした選手はたくさんいます。ボクシング女子フェザー級銀メダリストのフィリピン代表ネスティー・ペテシオ選手は、「LGBTQコミュニティにいることを誇りに思う」と記者会見で語り、柔道女子52キロ級の決勝で日本と戦ったフランス代表のアマンディーヌ・ブシャール選手は、同性のパートナーがいることを公表しています。

2021年の東京オリンピックは、LGBTQアスリートの数が史上最多となる181人であることがわかっています(2021年8月3日時点)。アメリカのスポーツメディア「Outsports(アウトスポーツ)」によると、その数は2016年のリオデジャネイロで開催されたオリンピックの3倍以上になるとのこと。LGBTQのアスリートが多い国は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど、同性婚が認められている国が印象的です。7月23日に行われたオリンピック開会式では、旗手をつとめた選手のうち6人がLGBTQ当事者であることがわかっています。

まとめ

LGBTQを公表するアスリートが表に出ることで、LGBTQについて語られる機会が増えることを期待できます。オリンピックが課題としているLGBTQの問題を解決していくために、さらに多くの人が認知するきっかけをもつことが求められます。これからより多くの人が、自分のアイデンティティで悩むことが少なくなるような社会を願っています。