どうも、空衣です。FtMでパンセクシュアルです。

貴重なアセクシュアル本『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』

今回ご紹介する本は、『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』です。アセクシュアルについて体系的にまとまっている本は日本ではまだ珍しいかと思います。
見えない性的指向 アセクシュアルのすべて-株式会社 明石書店

著者は、アメリカのジュリー・ソンドラ・デッカー。アセクシュアルでアロマンティック(他者への恋愛感情も性的関心もない)の女性です。原初『The Invisible Orientation: An Introduction to Asexuality』は2015年度Next Generation Indie Book Awards LGBT部門賞を受賞しています。
役者は、上田勢子。他にもLGBTs関連の本を訳しています。

誰にも性的魅力を感じない?アセクシュアルの性的指向とは

アセクシュアルとは「他者に性的に惹かれないこと」を指す性的指向です。「性行為や性的魅力を重視しないこと」と定義づけられることもあります。あるいは、アセクシュアル当事者のなかには「アセクシュアルとは性的指向がないこと」と定義することを好む人もいるそうです。
現在人口の1%に当てはまると言われております。思うよりも珍しいわけではありません。

関連記事アセクシュアルを知っていますか?

アセクシュアルへの誤解

アセクシュアルは性的に誰かへの働きかけを望んでいるわけではありませんし、同性婚のような権利を主張しているわけでもありません(もちろんレズビアンやゲイで、なおかつアセクシュアルである人もいますが)。何もしないし何も主張しないならこのままでいいじゃないか、とこれまで注目されることがありませんでした。情報が少ないため、「性的に魅力を感じないなんて自分はおかしいのかも」と一人で悩む方も多かったことでしょう。

アセクシュアルにまつわるこんな誤解があります。

・過去のトラウマでアセクシュアルになったの?
 →過去の体験のせいや、やり方が間違っていたわけではなく、単に他者に性的魅力を感じないのです。

・本当はゲイ(男性同性愛者に限らず同性愛者全般の意味でのgay)なのを隠しているのではないの?
 →「ストレート」以外の人をみんな「ゲイ」とまとめるのはやめましょう。性的指向は二者択一ではないのです。

・一時的なものでしょう?
 →アセクシュアリティは成熟した人の状態です。成長過程ではありません。

・セックスの上手な人に変えてもらえば?
 →性的魅力を感じるか否か、どの相手に性的魅力を感じるかは、セックスを試さなくても大抵わかっていますよね?異性愛者が“本当に同性愛者でない“と証明するためにあえて同性とセックスする必要がないのと同じことです。

・体やホルモンに異常があるの?
 →何らかの症状が原因である人とアセクシュアルである人が重なる場合もありますが、それは性的指向を否定する原因にはなりません。

本書には上記をはじめとした、アセクシュアルへのさまざまな誤解に対する具体的な回答が紹介されています!

もし知り合いがアセクシュアルだったら

『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』の素敵なところは、「知っている人がアセクシュアルか、そうかもしれないと思ったら」という非当事者向けの項目が設けられている点です。

まず大切なことは、アセクシュアルの人の存在を認めることです。目につく差別があるわけではなくとも、認知されずに日々を送らざるを得ない、不利な環境がたしかにあるからです。

といっても、アセクシュアルの人に対して「あなたの存在を認めます!」と喜びの声をあげたらそれはおかしな話です。なので、セクシュアリティの話題全般において注意するようにすることから始めたらよいのではないでしょうか。「全ての人が他者に性的魅力を感じるのだ」と思い込まずに、人と接することが大切です。

もし、恋人や配偶者がアセクシュアルだとわかったらどうでしょうか?アセクシュアルではなくなるよう努力を強いることがあってはいけないと、この本は教えてくれています。

恋愛するアセクシュアルの人もいます。ですがパートナー(あなた)がセックスが下手だから、その人がアセクシュアルになったというわけではありません。他者がどうにかすれば治る、過去のなにかのせいでそうなってしまった、と思うのではなく、素直に相手を信じることが大事です。アセクシュアルの人に対して、条件をつけたり疑ったりするのはやめたほうが良いのです。

アセクシュアルはLGBTコミュニティに含まれる?

アセクシュアル・スペクトラムだと自認する人への質問。あなたはLGBTコミュニティの一員だと思いますか?(p.92)

 「はい」41%

 「いいえ、でも私はアライ※です」38%

 「いいえ」12%

 「そのほか」9%

※アライとは、LGBT当事者ではないが、理解して協力的である考えや人のこと。

アセクシュアルの人が、自身をLGBT当事者として位置付けているかはバラバラです。従来のLGBTにまつわる取り組みや、LGBTが受ける差別として、想定される状況とはまた別の問題があるといえます。

アセクシュアルであるために抑圧や差別を受けたとしても、それはアセクシュアルだから受けた差別ではなく、別の要因だと見なされることがあるそうです。

たとえば、アセクシュアルでアロマンティックである(他者への恋愛感情も性的関心もない)男性が、女性と付き合わずにいるとゲイだと思われて暴力を受ける、という事例です。それはゲイへの嫌悪からくるものであって、アセクシュアルへの差別ではない、と片付けられることがあります。
または、職場での恋愛話に合わせられずにいるとき、それは同僚とうまくコミュニケーションがとれていないだけであって、アセクシュアルであることは関係ない、といわれる事例などがあります。

なにかネガティブなことが起きても、アセクシュアリティが原因だと受け止めてもらえない現状があると、この本では何度も指摘されていました。

本の最後には、英語圏のものになりますが、アセクシュアルコミュニティや論文について一挙紹介されています。
たとえば、世界最大のオンライン・コミュニティとしてAVEN(Asexual Visibility and Education Network)など。
The Asexual Visibility and Education Network | asexuality.org
気になる方はぜひチェックしてくださいね。

以上、『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』の紹介でした。最後までお読みいただきありがとうございます。

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
◎この記事を書いた人・・・空衣
1996年、神奈川県生まれ。性別も住処も旅してきました。

IRISはLGBTs当事者によるLGBTsフレンドリーな不動産会社です。1人暮らしや同棲でのお部屋探しにお困りの際はぜひIRISにご相談ください。お部屋探しのお手伝いをさせて頂きます。
首都圏のお部屋探しはIRISへ