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僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ

友人が「この映画は本当に素敵な映画だから、ぜひ観てほしい」と教えてくれたので、年末年始にツ〇ヤでレンタルしてみました。2013年に公開された「わたしはロランス」という映画で、生まれてからずっと女性になりたかったという男性教師ロランスと、彼の恋人フレッドとの10年におよぶ壮大なラブストーリーです。

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モントリオール在住の小説家で、国語教師のロランスは、
美しく情熱的な女性フレッドと恋をしていた。

30歳の誕生日、ロランスはフレッドにある秘密を打ち明ける。
「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」。
それを聞いたフレッドはロランスを激しく非難する。
2人がこれまでに築いてきたもの、フレッドが愛したものが否定されたように思えたのだ。

しかし、ロランスを失うことを恐れたフレッドは、
ロランスの最大の理解者、支持者として、一緒に生きていくことを決意する。
公式サイトより引用)
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トランスセクシュアリティはおそらく、最後のタブーだった

ロランスとフレッドはとても素敵なカップルです。日常のたわいもない議論をエモーショナルに重ねていく二人の絆は強く、映画の序盤ですぐに2人の魅力にハマってしまいました。しかしロランスの「僕は女になりたい」という告白をきっかけに、2人の関係は大きく揺れ動いていきます。物語の舞台となっている80~90年代は、「当時、トランスセクシュアリティはおそらく、最後のタブーだったように思う」とドラン監督が語るように、現在とは比べものにならないくらい周囲の目が厳しい時代です。二人は悩んだり、決意したり、相談したり、受け入れたり・・・周りの人々をも巻き込みながら、物語は進んでいきます。

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私は乗り越えた。若者にも乗り越えてほしい

カミングアウトして自分らしく生きていくことは、決して自分だけの問題ではありません。フレッドがそうだったように、カミングアウトされた側も少なからず悩み、葛藤します。時には心の澱となって、長い間その人を苦しめることだってあるかもしれません。しかしドラン監督が伝えたかったのは、きっと「私は乗り越えた。若者にも乗り越えてほしい」という励ましのメッセージだったのではないかと思います。表面上のきれいな部分だけで人と関わり合うのではなく、心の澱と向き合って悩みながらも前を見て生きていく人の姿は、こんなにも素晴らしいのかと感じさせてくれる映画でした。

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少し脱線しますが映画の舞台となった80~90年代と今を比べると、LGBTsを取り巻く社会環境が大きく変わってきたことを改めて感じました。当時より可視化が進んでいるから、現代であればカミングアウトされた恋人フレッドの苦しみも、もっと軽くなっていたのではないでしょうか。当時真剣に悩んでいた人たちや、そうした状況を変えようと努力を続けてきた人たちがいたからこそ、こうしてポジティブに時代が変わってきたんだと思います。またこれから10~20年先の時代は、今よりカミングアウトやアウティングで悩むことがないような社会になっていてほしいですね。

部屋を舞う“ほこり”まで美しいドラン監督の映像美

この映画の公開当時グザヴィエ・ドラン監督は弱冠24歳で、それまでの作品すべてがカンヌ国際映画祭で上映されてきた注目の鬼才。本作では絵画的で部屋を舞う“ほこり”まで美しい映像美、情景を力強く印象づける音楽など、とても映画らしい表現で壮大かつ私的なストーリーが綴られており、168分という長い時間軸の中にたくさんの魅力がつまっています。(個人的に、「ノルウェイの森」で知られるトラン・アン・ユン監督が好きな人には、きっとグザヴィエ・ドラン監督の作品も気に入ってもらえるのではないかと。)

ツ〇ヤで旧作料金でレンタルできるので、気になった方はぜひ一度ご覧ください^^

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/168分/カナダ=フランス/1.33:1/カラー/原題:Laurence Anyways
配給・宣伝:アップリンク

▼公式サイト
https://www.uplink.co.jp/laurence/

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◎この記事を書いた人・・・池澤廣和
これまでアート、デザイン、web、マーケティング、雑誌連載、大学講師など幅広い仕事をする一方で、LGBTsの映画祭を福岡で企画したりしてきました。IRISのホームページではLGBTs関連の記事を書いたりしているので、随時ネタを募集しています!

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